最近の高品質なスペシャルティーコーヒーには『ナチュラル』とか『ウォッシュト』なんて名前がついていますよね。
これはコーヒーの精製方法を記載しているんです。
主な製法は下記の通り
- ナチュラル
- ウォッシュト
しかしこれ以外にも精製方法はいくもあり、精製方法によって味が大きく異なってきます。
今回はナチュラルやウォッシュトといった精製方法の特徴や、味の違い、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
コーヒーの精製とは
コーヒーの精製とはコーヒーの木から収穫されたコーヒーチェリーを『珈琲生豆』の状態にする事を指します。
その精製工程として『ウォッシュト』『ナチュラル』と呼ばれる各種精製があります。
主な生産方法
精製方法はウォッシュト・ナチュラルを基本として主に下記の5つの方法が採用されている。
- ウォッシュト
- ナチュラル
- パルプド・ナチュラル
- ハニープロセス
- スマトラ式(セミ・ウォッシュト)
国や地域、さらには農家によって精製方法はそれぞれ異なっています。
精製がコーヒーの味に与える影響
コーヒーの精製が、実際にコーヒーを飲むときに与える影響はあるのか?
収穫したコーヒーチェリーの精製工程によって味や風味に大きな影響を与えます。
精製法によりコーヒーの味が大きく変わるためコーヒーの精製方法は高品質な珈琲においては珈琲豆の品質だけでなく、精製方法も重視されるようになってきました。
生産農家から見た精製方法の選択
精製がコーヒーのフレーバーに与える影響は大きい、しかしコーヒー生産者が精製方法を選ぶ際にフレーバーを最重視しているというのは早計です。
生産者はコーヒーの品質向上や多様性の向上を考慮してはいますが、多くのコーヒー農家は精製方法の選定としてフレーバー以上に『歩留まり率の上昇(欠点豆の減少)』を重視しているのです。
コーヒーの品質の上昇、欠点豆の減少を通じて商品価値の向上をはかるため、リスクが高い方法を避けるのは当然の流れですね。
コーヒー収穫から精製までの流れ
果肉を取り除き乾燥させるという工程がメインになります。
- 収穫したコーヒー果実を湿式ミルで果肉を取り除く
- 水分量60%ほどの豆を10~12%程度まで乾燥させる
ウェットミルとは?
ウェットミルとはコーヒーチェリーの果肉を取り除くための機械の事
ウェットミルのサイズは個人農家の道具を集めた小さなものや莫大な量のコーヒーを精製する巨大な工場設備があります。
ウェットミルが行うのは果肉を取り除き、種子がパーチメント(内果皮)に覆われている状態にするまでの段階である。
珈琲豆はパーチメントという果皮に保護されているため、ウェットミルで果肉を除去した段階でストップしておけば品質は落ちないとされています。
精製後の流れ
ウェットミル後は脱穀と格付けが行われます。
ウェットミルに対してドライミルというものがあり、こちらは精製後の『脱穀』に使用されます。
脱穀と格付けについては『コーヒーの脱穀から出荷までの流れ』をご覧ください。
ナチュラル(自然乾燥式)
ナチュラルは最も古いコーヒーの精製方法です。
ナチュラル コーヒーとは
ナチュラル(natural)とは収穫後、コーヒーチェリーを薄く広げて天日干しにする方法を指します。
レンガ造りのパティオ(中庭)に広げることもあれば、高床式の乾燥棚を使うことも多い。
乾燥棚を使うとコーヒーチェリーの周りで空気が動き乾きも早いため多くの農家で利用されています。
カビの発生や発酵・腐敗を防ぐために、コーヒーチェリーを熊手で転がしながら乾燥させている。
精製の流れ
- 乾燥棚で乾燥させる
- 乾いた外皮や果肉を機械で脱穀
- 生成された生豆を倉庫で寝かせる
この生成方式の過程で、コーヒーにフレーバーが付与されます。
フレーバーは香りよいものというイメージもあるが、実際は悪臭がする事も多い。
ナチュラル製法の特徴
ナチュラル製法は水が得られない場所では唯一の方式であり、エチオピアやブラジルなどで採用されている。
世界的には、自然乾燥式は非常に低品質か熟していない身を精製する際にのみ使われる方式と考えられ、この方式で生産されたコーヒーは可能な限り安く加工され、通常は国内市場向けか価値の殆どないものとされる。
この方式に必須である天日干し用の乾燥棚に投資しても、販売価格が安いため生産者にとってメリットがない。
高品質豆のナチュラル製法
スペシャルティコーヒーとして品質の高いコーヒーにナチュラル方式を選ぶ農家もあります。
しかしコーヒーチェリーを通常よりも慎重かつ丁寧に乾かす手間が増えるため非常に高コストになる。
ナチュラルは昔ながらの方法のため、地域によっては非常に伝統的な精製方式として残っており、丁寧に生成された高品質なものであれば需要はある。
ナチュラル方式で精製したコーヒー豆はフルーティーなフレーバーとなることが多い。
また、品種や土壌を問わずフルーティーな味わいになるためナチュラル製法自体を好む人も多くいる。
ナチュラル製法の香り
ナチュラルは低品質というイメージもありますが、高品質なナチュラルはとてもフルーティーで素晴らしい香りをたのしむことができます。
ナチュラルの良い香り
- いちご
- ブルーベリー
- トロピカルフルーツ
フルーツの良い香りのイメージが強いナチュラルですが、低品質なナチュラルのマイナス面も際立ちます。
ナチュラルの悪い香り
- 納屋
- 発酵
- 肥料
- 野性的
などと否定的な言葉で表現されることもあり、人気がなく採算がとれなくなるようなマイナスイメージも多いです。
一般的に高品質な豆として売られているナチュラル製法のものは手間をかけた高品質な豆だからこその香りなんですね。
ナチュラル製法をめぐる論争は2つに割れている
ナチュラルで生成された高品質のコーヒーは華やかで果実味のあり、ナチュラルのフレーバーに魅力を感じる人も多いです。
一方、自然のままのフレーバーを好ましくないものと考える人々もおり、バイヤーが生産者にナチュラルで精製したコーヒーを増やすように促すことに懸念を抱いている。
予測不可能な精製方式のせいで、欠点豆を多く発生させ生産者の収入を著しく減らしているという現状もあり、コストパフォーマンスが良くない製法という点も否定派からは挙がっています。
欠点豆の定義
欠点豆とはコーヒーのフレーバーを低下させる問題のある珈琲豆の事を指す。
欠点豆は簡単にわかるものとわからないものがある。
- 生豆の状態で欠点豆とわかるもの
- 実際に飲んで見るまでわからないもの
欠点豆は虫食いが原因のものなどは簡単に発見できるが、見た目で判断できないものは生産段階で判別できないため高品質な珈琲として販売するのが困難になる。
精製工程を丁寧に行うことで欠点豆を減らすことができ、高品質なコーヒー豆になるが条件によっては発酵臭や化学臭のする深刻な欠点豆が発生することもあります。
ウォッシュト(水洗式)
ウォッシュとは現在もっとも多く利用されている水洗式の精製方法
ウォッシュトとは
ウォッシュト(Washed)とは珈琲豆を乾燥させる前にパーチメントと言われる内果皮とミュシュレージと言われるぬめりのある部分をすべて取り除く精製方式の事を指します。
ウォッシュト製法では乾燥時に問題が生じる可能性を大幅に減らすことができ、コーヒーの価値を高めることにも繋がります。
しかし、この方式よりも遥かに費用がかかるというデメリットが…
ウォッシュト精製の収穫後の流れ
- パルパーで外皮と果肉を取り除く
- 発酵槽で残果肉を発酵させ取り除く
- 発酵が終わった珈琲豆を洗浄
- パティオや乾燥棚で乾燥
まずはパルパーと呼ばれる機械で収穫後のコーヒーチェリーから外皮と果肉の大部分を取り除く事からスタート。
パルパーで大雑把に果肉を除去した後、水を張った発酵槽に入れて残っている果肉を発酵させて取り除きます。
果肉は大量のペクチンを含んでおり、種子にしっかりとくっついているが発酵させることで組織が壊れるため水でかんたんに種子から取り除くことが可能。
最後はきれいな水の入った洗浄槽にうつし洗浄を行い、コーヒー豆の水分量が10~12%になるまで乾燥させる。
発酵に関して
この発酵の過程でどれくらいの量の水を使うかは農家により異なるが、発酵後の排水は環境に有害である可能性があり、環境面の懸念が問題視されています。
洗浄槽での発酵に必要な時間は、気温や標高など様々な要素に影響されるため一概には言えないが気温が高ければ高いほど発酵スピードが早く、効率が良くなる。
発酵時間が長くなるとコーヒー豆に嫌な匂いがついてしまうというデメリットも…
発酵完了の確認方法
十分に発酵が完了したかどうかを判断する主な方法は下記の2つ。
- 豆をこすりあわせて確認する方法
- 発酵槽に入れた倒れるかで判断する方法
前者の方法は生産者の感覚で判断することになる。
豆をこすり合わせたときに『キュッキュ』という音が鳴れば果肉が完全に剥がれ落ちている事がわかる。
種子の表面からペクチンがしっかりと剥がれ落ち、なめらかになっているという事になります。
発酵槽に棒を差し込んで確認する方法もある。
こちらは発酵槽にペクチンが溶け出すとゼラチン状になる性質を利用した判断方法。
棒を発酵槽に入れたときに棒が倒れなければしっかりとペクチンが溶け出したという証拠になる。
発酵後はコーヒー豆を乾燥させる
発酵が終わった珈琲豆は洗浄し、残った不純物を取り除いてから乾燥させる工程に移ります。
- パティオや乾燥棚に豆を広げる
- 熊手でかきまぜつつ均一に乾かす
湿度の高い地域では最終的に機械で乾かす場合もありますがパティオや乾燥棚に広げて、天日に当てるのが一般的。
前述のナチュラル方式と同様、定期的に大きな熊手でかき混ぜながらゆっくりと均一に乾かしていく。
そのため日照が必要で、日照不足だったり湿度の高い場所では機械で乾燥させる場合もある。
豆の乾燥目安の水分量は10~12%
珈琲豆の乾燥は10〜12%が理想とされている。
天日干しが一番良いとされている理由は急速な乾燥が良くないからです。
機械乾燥や極度の日照により急速に乾燥すると品質が劣るため高品質なコーヒーは乾燥にも気を使っている。
ウォッシュトの味の特徴
- 酸味が強い
- 苦味や雑味が少ない
- 高品質なコーヒーに多く利用される
高品質なコーヒーに多く利用されているウォッシュト精製ですが、ウォッシュトは他の方法で精製したコーヒーよりも酸味が強く苦味や渋味のないクリアな味である『クリーンカップ』と呼ばれるコーヒー豆になります。
クリーンカップとは
クリーンカップとは渋みや苦味といったコーヒーの風味を損なう味のない、クリアな味になっているコーヒーの事を指します。
高品質なコーヒーは飲みやすく、すっきりとした味わいで、後味が非常に良いです。
後味がクリーンでクリアな味のコーヒーがクリーンカップと呼ばれる。
パルプド・ナチュラル
パルプド・ナチュラルは少量の水で果肉を取り除き乾燥させる方式
パルプドナチュラルとは
パルプド・ナチュラル(Pulped Natural)とはウォッシュトよりも少ない水の量で果肉を取り除きパティオや乾燥棚で乾燥させる方式の事。
少量の水で風味の高いコーヒーを生産するという目的の元、珈琲精製機器メーカー、ピニャレンセ社が開発。
主にブラジルで行われている精製方式です。
果肉の大部分は除去するため、種子についている果肉が少なく、欠点豆になるリスクを減らすことが出来るというメリットも有る。
パルプド・ナチュラル精製では残った果肉に糖分が含まれている為、甘味やコクが強い珈琲豆になる傾向があります。
ハニープロセス
ハニープロセスはパルプド・ナチュラルと似た、除去する果肉量が調整される方式
ハニープロセスとは
ハニープロセス(Honey Process)とはパルプド・ナチュラルと似ている精製方式で、水分量がより少なく済み、除去する果肉量が調整される事の多い方式の事。
主にコスタリカやエルサルバドルといった中米諸国で利用されている精製方式となる。
ハニーは文字通り蜂蜜を表す。
また、スペイン語で蜂蜜を意味するミエルプロセスと記載されることもある。
メリットとデメリット
果肉をあえて残すことで甘味が残りやすく、独特なフレーバーが楽しめるコーヒー豆になる。
デメリットとしては豆に果肉が残されるため乾燥時に発酵豆や欠点豆が生じるという歩留まり率低下リスクが高いという点があげられる。
スマトラ式(セミウォッシュト)
スマトラ式(セミウォッシュト)とは
スマトラ式(semi-washed)はインドネシアでよく行われる精製方式で、現地では「ギリン・バザー」と呼ばれる方式のこと。
コーヒーチェリーは収穫後、果肉を除去して軽く乾燥させることになります。
他の方式では水分量を10〜12%にするところスマトラ式では30~35%の水分量で乾燥を終了させるという特徴があります。
- コーヒー収穫
- 果肉を除去して30~35%まで乾燥
- パーチメント除去し生豆にする
- 再び乾燥させることで濃緑色に変化
通常パーチメントは出荷直前に除去するがスマトラ式は唯一の例外で生豆の状態で乾燥させている。
スマトラ式は欠点豆が発生しやすいが、インドネシア産のスマトラ式コーヒーの独特のフレーバーの人気も高い。
スマトラ式のコーヒーの特徴
- 酸味が弱い
- コクが強い
- フレーバーが多様で独特
非常に多様なフレーバーで木、土、カビ、スパイス、タバコ、皮などのマイナスイメージの香りで表現されることもあるが高品質なインドネシア産(スマトラ式)コーヒーは良い香りが強く美味しいものもあり差が顕著に出る。
とはいえ個性が非常に強いため、非常に好みの分かれる精製方式となっている。
個人的にはとっても好きです。
モンスーン処理(モンスーンプロセス)
モンスーン処理とは収穫したコーヒー豆をパーチメントが付いた状態で保管され、湿気の高いモンスーンによって湿気を含ませる処理のことで高湿度で発酵させるインド独自の生産方法。
パーチメントが付いた状態で保管、発酵されるという性質からナチュラル系のプロセスとなっている。
インド産有名銘柄『モンスーン マラバール』で使用されている
インド産の有名銘柄であるモンスーン マラバール。偏西風の「モンスーン」とアラビア海の「マラバール海岸」からモンスーン マラバールと呼ばれるコーヒー豆の銘柄になっています。
モンスーン マラバールはインド独自のモンスーン処理で生産されている特殊なコーヒーで、酸味が弱く刺激の強いフレーバーや香りが特徴。
モンスーン処理の手順と方法
モンスーン処理の大まかな手順は下記の通り。
- 収穫されたコーヒーチェリーの果肉を除去
- 内果肉を残したまま輸送、保管
- 倉庫に豆を広げ、モンスーンにさらし湿気を含ませる
- 麻袋に入れ高温高湿で保管
- 適度に撹拌し発酵させる
コーヒーを収穫した後、果肉だけを除去し、内果肉(パーチメント)が残った状態でインド南西部のマラバールに運ばれモンスーン処理が行われます。
天日干しにするナチュラルと同じような要領で倉庫内に生豆を並べ、モンスーンの湿気が均等にいきわたるように定期的に熊手で混ぜる。
1週間程度寝かせたら麻袋に詰め、間を空け湿気がよく通るようにし、定期的に袋の中も混ぜて均一に水分を含みながら発酵していき、2ヶ月程度で薄黄色で水分量を多く含んだモンスーンコーヒーが出来上がる。
モンスーン処理の歴史
モンスーン処理は完全なる偶然からはじまっている。
英国植民地時代にヨーロッパへコーヒーを輸出する際に、モンスーンにより生豆が湿気を多量に吸収し独特なコーヒー豆に変化するという現象が起きた。
輸出環境が改善した後も、当時のモンスーンにさらされた多湿コーヒーの需要が高かったことからモンスーン時の輸出を再現する手法として「モンスーン処理」が開発され、現在でもインド西海岸でモンスーン処理が行われている。
コーヒーチェリーの精製方法まとめ
コーヒーの精製方法によって大きくフレーバーは変わってきます。
ナチュラルのフローラルで爽やかな酸味やウォッシュトのスッキリとしたクリアな味、どの精製方法にも大きな魅力があります。
パルプドナチュラルやハニープロセス、地域の特色を生かしたスマトラ式やモンスーン処理など、コーヒーを生豆にするだけでも多くの処理方法があるので知っているとコーヒーがもっと楽しくなります。
ぜひいろいろな精製方法のコーヒーを飲み比べてみてください!
コメント